『ダークナイト』の昔の感想と今の感想
【解説】
「メメント」「プレステージ」のクリストファー・ノーラン監督がクリスチャン・ベイルを主演に迎えて贈る新「バットマン」シリーズの「バットマン ビギンズ」に続く第2弾。狂気の悪“ジョーカー”の登場により自らの存在意義そのものを問い直されることになる闇のヒーロー、バットマンの心の葛藤と、正義を守るための決死の戦いをリアルかつダークに描き出す。なお、そのジョーカーを圧倒的な存在感で怪演したヒース・レジャーは、本作撮影終了直後の2008年1月に28歳の若さで惜しくもこの世を去った。
ゴッサムシティでは、バットマンとゴードン警部補が手を組み、日々の犯罪に立ち向かっていた。だが、白塗りの顔に裂けた口の“ジョーカー”と名乗る正体不明の男が闇の世界で頭角を現わし、バットマンを嘲笑うかのごとく次々と凶悪事件を引き起こしていく。そんな中、新しく赴任した地方検事のハーベイ・デントは正義感に燃え、バットマンとも協力して犯罪の一掃を強力に進めていく。それでも凶行の手を緩めず街を混乱に陥れるジョーカーは、いよいよバットマンたちを窮地に追い込むための謀略を開始するのだった。(allcinema onlineより)
[@ワーナーマイカルシネマズ広島]『ダークナイト』(2008-08-15)
タイトルから【バットマン】のバリューネームを外し、ジョーカーをメインビジュアルに据えるという意外な戦略に出た本作。しかし週間文春のクロスレビューで芝山先生は5点満点、本国アメリカでは圧倒的な興業収入で歴代1位の『タイタニック('97)』にどこまで迫るか現在も注目されている状態。公開前日にファミマで共通前売を買って何時でも/何処でも観れるよう体制を万全にしておきました。
152分という長尺を退屈させる間もなく引っ張るのは2転3転する巧みな脚本。弟のジョナサンと脚本を共同執筆したクリストファー・ノーランは、アクションの見せ方は相変わらず下手糞*1なんだけど、”最凶の敵”ジョーカーによる狡猾/残忍/冷酷なゲームを次々と繰り出してくる。このゲームに翻弄されるバットマン/デント/ゴードンの正義の側の3者の苦悩とその結末は、─次回作がまた重厚なものになりそうだという予感を期待を孕ませて─、深い余韻を残す。またこれまでのシリーズでは登場することのなかった【白昼の群集パニック】【市井の臣の決断*2】という要素が、無差別に市民を巻き込むテロリズムの恐怖と隣り合わせの現実社会を想起させ、またそれがアメリカでの爆発的なヒットの要因でもないかと考えてしまう。
以下、私と相方の、鑑賞後のヨタ話。(多いにネタバレしてます)
- 「冒頭の銀行襲撃のシーンから仲間割れで血生臭かった」
- 「”誰の金だと思ってんだ!”とショットガンを打ちまくる男をしばらくクリスチャン・ベールと混同してしまった。同じような痩せぎすタイプで」
- 「犬には弱いバットマン。ちょっと情けなかった」
- 「でも猫には強いって言ってた。偽者には怒る。”オレはホッケーのプロテクターなんて付けん!”って」
- 「今回バットマンは香港まで出張してます」
- 「飛行機で脱出バーン!のシーンには笑いました」
- 「ジョーカーは名刺くばったりあちこちで大規模な爆弾を細工したり、以外と仕事が細かい」
- 「実は『スピード('94)』のデニス・ホッパーを思い出してた。あの短期間でどうやって準備したんだよ、って。あと手品も得意。”鉛筆があります。ハイ消えました!”ってスゲー」
- 「バットマンがあの格好で出てくるだけで可笑しいんだけど。真面目なゴードン警部補との2ショットとか」
- 「あの声色もね。ゴードン宅の玄関のポーチに隠れて家族の話を聞いてる姿、日本の妖怪みたいだった」
- 「ゴードン役がゲイリー・オールドマンだってことに前作では終わるまで気づかなかった」
- 「今まではエキセントリックな役柄が強かったのにどうしたのかね」
- 「マギーとジェイクのギレンホール姉弟は偶然にもそれぞれヒースの最近作で競演したわけだ」
- 「マギー・ギレンホールは女性から見ても”かわいい”役だったと思うよ。死んじゃうわけだけど。けどその死がこの映画のテーマにもちゃんと繋がってる」
- 「デントがレイチェルの死に対して苦悩する様が後半部の見所だった。それだけにレイチェルの死に対してもブルース/バットマンがどう感じているのかが伝わってこなかった」
- 「マイケル・ケインはお年寄りになったなぁ。そろそろカウントダウンが始まる?」
- 「要所でいい味出してました。でもデントの資金集めのパーティをジョーカー一味が襲撃した場面ではいつの間にかトンズラしてました。自分は前作の時点で、マイケル・ケインとモーガン・フリーマンがそのまま続投するなら続編も見よう、と思ってた]
- 「モーフリは役どころも演技も楽してた。コンサルタントを逆脅迫するし」
- 「で、結果的にあのコンサルタントはジョーカーの”殺せー!”で大変な目に逢う」
- 「あの直後、一般の人達がもっとゾンビみたいに襲い掛かってくるかと思ったけどね」
- 「トゥー・フェイスの顔デザインはちょっとやりすぎ。画面から浮いてた」
- 「ケロイド系だったら夢に出てきそうだったけど、スケルトン・ターミネーター系だったらからまだ良かった」
- 「ちなみに旧シリーズではトミー・リー・爺がトゥー・フェイスを楽しそうに演じてました。コインの表が出ても自分でまた返して裏にしたり」
- 「アーロン・エッカードは『シュレック』に出てくる典型的な王子様顔だった。顔の輪郭がはっきりしてて、アゴが割れてて」
- 「ひょっとしたらあのアゴがトゥー・フェイス役に抜擢された決め手かも。”顔の中心線が判りやすい!”って」
- 「バットポッドの登場シーンはもっとケレン味が欲しかった。停止したバットモービルからじゃなくて、大破しながらもギリギリまで走り続けるバットモービルから飛び出すようにスピード感を維持するべきだった」
- 「その登場後にバットポッドが街中を走り回るシーンは笑った。中に人がいるかもしれないのに障害物として停まってる車を爆破したり」
- 「あれこそ『ハンコック』だ」
- 「留置場でジョーカーが電話で爆弾を起爆させるシーン、電話がダイヤル式だったらどうしたんだろう?」
- 「ていうか、自分の腹に爆弾うめられたアイツ、その時点で気づけよ!」
- 「ジョーカーは精神病院でアタマの弱い人を部下にしたという設定だから…」
- 「ヒース・レジャーの演技は、可笑しかったね(いい意味で)。病院でデントに”なぁ、君”なんていい人になるシーンとか」
- 「看護婦のコスプレはやりすぎかと。そしてあの格好で”あれ?あれ?”って起爆装置をいじってボカーン」
- 「あの演技にLiLiCo姉さんは涙したわけですね*3」
- 「あの演技だけじゃなくて、いろいろと思うことあってでしょうけど…」
- 「…と、笑えるシーンもいっぱいあって、面白かった」
- 「重厚で緊張しっぱなしだった。ゴッサムシティには住みたくない」
[@広島サロンシネマ1]『ダークナイト』(2009-03-22)
初回では”えー、そうなるのー!!”という驚きに唖然とするだけだったけど、 再見では”なぜ、そうなったのか…?”というトレースがきちんとできて良かった。
市長パレード狙撃シーンでの、一瞬の素顔ヒース(傷メークはある)も確認できたし。
前半約1時間半のジョーカー逮捕までだけでも一本の映画として成り立ってるんだよね。
ウェインの【金持ちぶり】とバットマンの【変な格好での神出鬼没ぶり】は笑いどころで、バッドモービル+バッドポッドのカーチェイスアクションの見せ場があって、
ゴードン+デント+ウェインの【連携】【信頼】【信念】で彼らはボロボロになりながらジョーカーを逮捕。
と、ここまでを『ホワイトナイト』というタイトルでまとめて、この後の重さに耐える自信のないお客さんはここで気持ちよく帰ってもらったほうが良いかも。
(劇場公開前のパブリシティもこの前半部分からのエッセンス抽出が大半だったように思う)
その後の約1時間はボスボス、と至近距離からショットガンで撃たれ続けるような衝撃の連続。
もちろんこっちは【観客】という立場の防弾チョッキをまとって安全圏に居るのではあるが。
後半の冒頭、ジョーカーの正体が人間ではなくて、この世界に存在する【狂気】【悪意】そのものが人のかたちをしたものだと判ったときに、彼の勝ちは決定的になる。
人じゃないから、やたら手の込んだ同時多発テロもお手のもの。
人じゃないから、逮捕も刑も意味を成さない。
それまでの1時間半を無に帰すための悪意の逆再生、とでも言おうか。
先の【連携】【信頼】【信念】はジョーカーにことごとくひっくり返される。
信頼しあえたはずの3人が2人になり、2人が1人になり、正義はすり潰される。
ラストシーン、悲壮な姿で走り去るバットマンの姿に相方とふたりでポロポロと泣いた。
ここまで重厚なものを創ってしまって、どーするよ、今後のバットマン。
軽薄にペンギンとか猫とか出してる場合じゃねぇよ!
でも、ゴードンの息子がロビンになって、命と引き換えにデントから重い宿題を出されたゴードンの部下の女刑事がバットガールになる、という展開はありなのかも。
(コスチュームデザイン次第、ではあるけれど。)