昔観た映画の感想・筋少ファンに薦めてみたい映画セレクト

オーケン詩世界の通低音とも言える(と僕は思っている)【孤独な魂はどこに行くのか、どこに行けばよいのか】という命題から思い浮かんだ4本。


ドニー・ダーコ(’00)

ドニー・ダーコ [DVD]

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【解説】
 2001年のサンダンス映画祭で「メメント」「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」とともに話題を呼んだ異色の青春ムービー。これがデビューとなるリチャード・ケリー監督が青春時代の若者の心に潜む闇をユニークな手法で見みごとに映像化。17歳の少年ドニー・ダーコが体験する[28日6時間42分12秒]の奇妙な出来事の連続と増幅する謎の数々、そして衝撃の結末とは? リバース(反転)ムービーと呼ばれ、全米では熱狂的なマニアを生み出した。ドリュー・バリモアが脚本に惚れ込み、出演のみならずプロデュースも担当。
 1988年、アメリカ・マサチューセッツ州ミドルセックス。ある晩、高校生ドニー・ダーコの前に銀色のウサギが現われる。ドニーはウサギに導かれるようにフラフラと家を出ていく。そして、ウサギから世界の終わりを告げられた。あと28日6時間42分12秒。翌朝、ドニーはゴルフ場で目を覚ます。腕には「28.06.42.12」の文字。帰宅してみるとそこには、ジェット機のエンジンが落下していてドニーの部屋を直撃していた。何がなんだか分からないながら九死に一生を得たドニー。その日から彼の周囲では、不可解な出来事が次々と起こり始めた。
allcinema onlineより)


 青系の色調と80年代のヒット曲にのせて、流れるようなカメラワーク/スローモーションによりなめらかに提示されるドニー・ダーコの世界。どこまでが現実でどこからが思春期の空想(≒悪夢)なのか明確な線引きは示されず、巨大な気ぐるみのウサギや人体から流れだす流動体等のわけのわからないモチーフが脈絡なく、かつ意味ありげに登場する。それらのモチーフは青年期の心理学的メタファーとしていろいろな解釈はできそうだけど*1、あえて解釈しようとせずにそのまま【自分だけの世界が現実世界と相容れない歪みから発生し存在する不条理】として映画の最後まで抱えておくのが正しいのかもしれない。


「結局居場所などなかったんだ」ということが美しく残酷に示されるラストシーンで、一緒に観ていた相方はエンドロールが終わってもずっとすすり泣いていた。



『マジック』(’79)

マジック [DVD]

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【解説】
 人形を使った腹話術で人気を博した元手品師のコーキーが、マネージャーの手をはなれ突然故郷へ帰ってしまう。彼はそこでかつての恋人である人妻ペギーと再会し愛を育むのだが、マネージャーはしつこくコーキーを追い回す。やがてコーキーは腹話術の人形に命令されるままにマネージャーを殺してしまう……。W・ゴールドマンが自身の原作を脚色したシナリオは技巧に富み、ユニークかつクォリティの高いサイコ・スリラーを作り出しており、A・ホプキンスの神経症的芝居もそれに応える怪演。
allcinema onlineより)

 『大統領の陰謀('76)』のW.ゴールドマンによる脚本、監督は『ガンジー('82)』のリチャード・アッテンボロー、『羊たちの沈黙('91)』よりずっと若いアンソニー・ホプキンス、というオスカー受賞者トリオにも関わらずその存在自体が殆ど知られていない傑作。でもオーケンは年代的にもこの映画を(テレ東のテレビ洋画劇場で)見ているのではなかろうか。
 気の弱い腹話術師がその人形(に託した人格)に自分の行動を支配され、そして…という『文豪ボースカ』のシリアス版だと思っていただければ。モチーフ的にはそれほど目新しいものではないけれどサスペンス演出は手堅い。そして何よりも、アン・マーグレットが演じる主人公の幼馴染の存在によってこの映画はキャッチコピーである"Terrified Love Story"として昇華している。A.ホプキンスの不器用さを受け入れる彼女の存在が、悲劇のラストをより哀しくする。

 ほんのあと少しで孤独な心は救われたかもしれないのに。本当に寂しいのは「自分は孤独だ」と思うことではなくて、自分の孤独を受け入れてくれる存在に気づかないことだ。



『愛に関する短いフィルム』(’88)

愛に関する短いフィルム [DVD]

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【解説】
 <見る>という行為を通して愛を描いた純愛映画。郵便局で働く19才の少年トメクはマグダという女性に密かに恋焦がれていた。そして彼は毎夜8時半になると、アパートに帰ってきた彼女を向かいの自分の部屋から望遠鏡で覗き続けるのだった……。モーゼの十戒の第6の戒律“汝、姦淫するなかれ”をモチーフに、精神と肉体の一体化なしに愛は存在するのかという監督独自の角度から描いた純愛映画。
allcinema onlineより)

 ポーランドの巨匠、クシシュトフ・キェシロフスキ監督が、全10話から成るTVシリーズ『デカローグ』の1編『ある愛に関する物語』を映画作品として再編集した作品。
 DT少年が妄想の対象と正面から対峙したときに、ふたつの魂はどのように互いの存在を捉えるのか。キシェロフスキ監督の演出手法は、市井の人々の日常のディテールをひたすら積み重ねて最後に初めて、その積み上げられた高さから見える世界に気づかされる…というスタイルなので、途中で寝たりせずに最後まで頑張れば得られるものも大きい。
 かつて少年が自分を覗いていた場所から、女は自分の部屋を望遠鏡で覗く。そしてそこに彼女が観たものは…。ふたつの孤独な魂が救済されるラストシーンは、思い起こすたびに喉に小石がつまります。
他のキエシロフスキ関連の作品も、【魂の孤独、そしてその行方】を扱った作品が多いので、筋少ファンにはぜひ観てほしい。…と言うより、自分自身が『デカローグ』を全部観なければいけないのだけど。


…と言ってるそばからキェシロフスキ監督のほぼ全作品を含む特集上映がユーロスペースが決定。広島ではあるのかな…お近くの方はぜひ!
http://www.eurospace.co.jp/detail.html?no=205



『ヘヴン』(’02)

ヘヴン 特別版 [DVD]

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【解説】
 「トリコロール」三部作などの巨匠クシシュトフ・キエシロフスキーの遺稿脚本を「ラン・ローラ・ラン」のトム・ティクヴァ監督がケイト・ブランシェット主演で映画化した、一組の男女の運命的な愛を描いたラブ・ストーリー。共演は「ギフト」のジョヴァンニ・リビシ。破滅へと向かう男女の愛の逃避行が静かに緊張感溢れるタッチで綴られる。
 イタリア・トリノ。英語教師のフィリッパは高層ビルに忍び込み時限爆弾を仕掛けた。彼女の目的は一人の男を殺すこと。彼女の愛する夫を死に至らしめ、大切な教え子たちを不幸へと導いた麻薬密売人。フィリッパはこれまで何度も男を逮捕するよう憲兵隊に訴えたが相手にされず、自ら行動に出たのだった。やがて、彼女の自宅に憲兵隊が突入する。彼女は抵抗することもなく憲兵隊に捕えられる。憲兵隊での取り調べが始まると、フィリッパが英語しか話そうとしないため、その場に書記として同席していた新人憲兵フィリッポが通訳を買って出る。尋問が進む中で、フィリッパは男が死を免れ罪なき4人が犠牲になったことを知らされ、ショックのあまり気を失ってしまう。フィリッポはそれを為すすべもなくただ見つめていた…。
 静謐にして濃密、寡黙でありながらなんとも豊かな心の交流。後半、トスカーナの美しい風景の中で展開する二人の逃避行は、無駄な音楽を極力廃してどこまでも静かに(二人が踏みしめる砂利の音がこんなにも愛しいものだとは!)緊張感たっぷりに、それでいて優しさと温もりをもって描かれる。主演の二人が、抑えた演技ながら内面から滲み出る感情を見事に表現して素晴らしい。また、出番こそ少ないものの、世間知らずで純粋な我が子を優しく見守る父親を演じたレモ・ジローネも印象深い。
allcinema onlineより)


 孤独な爆弾犯に恋した若き警察官。二つの孤独な魂は必然のように惹かれあい、愛し合い、そして─。 モチーフがすでに筋少っぽいのだけど、『トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く』を聴いて”あぁ!!”と思い出したのが『ヘヴン』だった。
 トリノ市外の空撮(ゴッドアングル=神の視点)から始まるオープニングと対を成すような、再び神の視点に戻っていくラストシーン。暗転しエンドロールが流れ場内の灯かりが点いてしばらくたっても、客席で嗚咽が止まらなかった。それから約6年後、『トリフィドの日が来ても─』の「世界からはこぼれたけど/流星の雨に紛れ/トリフィドの幹にかけのぼり/そして宇宙まで行けるよ」を聴いて、このラストシーンを思い出してまた泣いた。

 ジョヴァンニ・リビージとケイト・ブランシェットのコンビは、サム・ライミの『ギフト』でも共演。この中でのリビージの役どころとラストシーンがまた泣ける。レトリックではなくてまさに【魂の救済と昇華】が描かれている。本当は『ギフト』も筋少関連映画の5本目に加えたかったけど、本筋のテーマが少し違うので割愛。



以上はどれも過去に一回観たきりで細かい内容はうろ覚えなのだけど、どれも好きな(強く心に残った)映画なので、今の自分自身がぜひ観返してみたい4本でもあります。
筋金入りの筋少ファンの方の感想や、他にこんな映画あるよー、という意見もぜひ聞いてみたいです。

*1:市販DVDではボーナスデータとしてそれらの解説が収録されているそうだ