『サマーウォーズ』(@鹿児島ミッテ10)


【解説】(allcinema より)

 2006年の「時をかける少女」が評判を呼んだ細田守監督が、再び奥寺佐渡子(脚本)、貞本義行(キャラクターデザイン)とタッグを組み、気弱な理系少年の思いも寄らぬひと夏の大冒険を描くSF青春アドベンチャー。ひょんなことから片田舎の大家族と夏休みを過ごすハメになった17歳の少年が、仮想空間に端を発した世界崩壊の危機に立ち向かう姿を家族の絆を軸に迫力のアクション満載で描き出す。声の出演は神木隆之介桜庭ななみ富司純子
 仮想都市OZ(オズ)が人々の日常生活に深く浸透している近未来。小磯健二は天才的な数学の能力を持ちながらも内気で人付き合いが苦手な高校2年生。彼は憧れの先輩、夏希から夏休みのアルバイトを頼まれ、彼女の田舎、長野県の上田市を訪れる。そこに待っていたのは、夏希の親戚家族“陣内(じんのうち)家”の個性溢れる面々。この日は、夏希の曾祖母で一族を束ねる肝っ玉おばあちゃん、栄の90歳の誕生日を祝う集会が盛大に行われていた。その席で健二は夏希のフィアンセのフリをする、というバイトの中身を知ることに。そんな大役に困惑し振り回される傍ら、その夜健二は謎の数字が書かれたケータイ・メールを受信する。理系魂を刺激され、その解読に夢中になる健二だったが…。


■写真は、先着10万名に配られたポストカード(角川文庫版の表紙と同デザイン)。映画を観たあとに判る大道具&小道具がいっぱい。特に、夏希が手にしている茶色いものの正体は、観た人じゃないと判るめぇ。…でも、カズマが持っているものは何…?


■『時をかける少女』から3年。少ない本数を細々と回しながら口コミの評判と(結果的に)プレミア感が高まっていった前作の状況とは大きく異なり、全国の主要映画館で堂々の夏休みロードショー。初日の今日がファーストディ/1000円サービスの日だったこと、前日の金曜ロードショー魔女の宅急便』にて特報が流されたこと(らしい。観てないけど)もあってか、僕が観た2回目の回は劇場満席。その大半は夏休みの学生さんで、客層の広がりを感じた。


■異なるのは上映の状況だけではない。本作に『時かけ』のようなテイストを期待してはいけない。
”ナイスの日”の閉じた円環の中を真琴ひとりがループ姿に象徴されるように、『時かけ』が真琴という一個人の決意と成長を一点突破で描いたエモーショナルな作品だったのに対して、本作は【健二/夏希】→【陣内家】→【全世界】の絆が形成されていく姿を物量作戦とも言える大アクションとスペクタクルで描くエンターテイメント作品。
そして個人的には、『時かけ』に描写が欠け落ちていた、細田守が考える【困ったときの家族の機能】を本作がフォローしてくれた、とも思っている。


■物語の設定は少しだけ未来の2010年の夏。ネット内の仮想社会【OZ】上にて殆ど全世界の人間がアバターを作成し、携帯電話も固定電話も対戦ゲームもそのアバター経由でやりとりが行われ、さらには現実社会のインフラ管理にも大きく食い込んでいるという設定が前提。


しかし、その設定以外は、あらゆる意味で【今】の映画。↑の解説では”SF”ってあるけど、仮想世界をSFと呼ぶのは年寄りの感覚だよ。

青空と入道雲高校野球が似合う【今】の季節、
長野県上田市の旧家の大邸宅を舞台に、
【今】作の公開日”0801”が世界を救う重要なキーワードとなる。

危機的状況が差し迫ったとき、
【今】家族はその繋がりにどのような価値を見出すのか。
【今】世界はどんな手段・目的で繋がり得ることができるのか。

【今】の情報/社会インフラに起こりうる恐怖に、
【今】使えるあらゆるツールを駆使して立ち向かう家族の姿を、
【今】のアニメーション技術をフルに使った表現手法で描く。


■『時かけ』に寄せて細田監督は言った。
「当時、少女たちは、「時をかける少女」を読み、未来を夢見た。そして今、かつて未来と夢見られた21世紀に僕らはいる。けれど、決してあの頃、少女たちが憧れた未来ではないはずだ。では、夢見たはずの未来の姿は、どこへ行ってしまったのか?(中略)時代によって変わっていくものと、時代を経ても変わらないものについて考えてみたいと思う。」
その問いかけへの答え【強い意志の向かう先にいつも未来はある】というテーマは『時かけ』も今作も共通している。
そして今作で【強い意志を育むのは家族であり、家族を守りたいという意志は何にも勝る】という重要な追補が行われた感じ。
「いちばんいけないのは、おなかがすいていることと、ひとりぼっちでいることだ」で、涙。
わたしたちの家族を守ってください」で、涙。


■脚本のつくりとして、基本的なことではあるのだけど、2時間の尺をちゃんと4等分して、
【起】:物語世界の設定説明/物語導入/主要人物紹介・侘助叔父という不況和音/謎のメール
【承】:危機的状況の発現→黒電話の活躍→一次収束、謎の解明
【転】:犠牲、災厄、集結、対決、封印
【結】:絶望、食事、信託、コイコイ、パンチ、お願いしまーす!(以上うろ覚え)
というバランス配分が結果として話はこびのスピード感を加速させるものとしていて、その結果、最終対決の【カズマ】→【夏希】→【健二】の見せ場の積み重ねには、三段重ねの豪華なお重をご馳走になった満足感。


■弱点もある。家族の一人ひとりに焦点を当てることには当然無理が生じるし、絞り込んだ数人のキャラの背景や感情起伏も、所々観客側で補わざるを得ない箇所もある。例えば、健二が敵に立ち向かうきっかけとなったはずの縁側のシーンで、夏希の感情(=栄への思い)が今ひとつ説明不足なので、号泣する夏希の姿は「ああこれって『時かけ』の屋上での真琴の2番煎じだな」という批評的な感覚がチラついたりするし、逮捕された健二が別れ際に「僕には家族がいないので、楽しかったです」と言うのも何だか唐突すぎる。
俳優陣は『時かけ』でほんのチョイ役だった中村正御大や永井一郎御大、といったベテランが脇を固めるも、谷村美月の声はカズマのルックスの中性感もあって、中学生男子には聞こえない。ありゃどう観てもイケメン女子だ。


■そんなマイナス要素を加味しても、見所いっぱいの【夏休み映画】の快作。花札ブーム、来るかしら…?